「蒲焼店が考える“これから”」82 〜2016年9月25日号掲載〜 [蒲焼店が考える“これから”]
二代目 山下昌明氏(56)
(浜名湖自鰻「天保」/浜松市西区)
「業界ももっと間口を広く、世界から職人の育成を」
10月も間近に迫り、秋の気配を感じさせる今日この頃。うなぎ業界全体も完全なるオフシーズンに突入している。今夏の丑商戦、またその後の売れ行き、また仕入れが未だ高い水準にある中、利益率はどうだろうか。
「食堂のお客様は、前年より20%位よかったと思いますが、一方で白焼きのギフトはやや落ちたように思います。確かに仕入れは高かったのですが、当店では養殖場の池揚げが6月に一度、7月に二度あり、自前の鰻で50%ほど充足できました。利益率は過去の5,000円/kg時代よりはありました」
オフシーズンの中で、販促に対する働きかけ、あるいはインバウンド消費の取組みを何かしら行っているか?
「販売促進はホームページの充実と、かんざんじ温泉観光協会や浜松観光コンベンションビューローへの加盟で、結構、遠くからの来店もあります。インバウンドのお客様の取り込みの一環として、『浜名湖うなぎ探検隊』という養鰻城見学ツアーを実施、9/18にはシンガポールから26名の来店がありました」
専門店にとっての“良いウナギ”とはどのようなものを言うのか?また扱う産地へのこだわりは?
「良いウナギの定義は難しいのですが、個人的には背中の黒と腹の白のコントラストがはっきりしているものが良いように思います。また、やはり新仔の方は、ロスが少なく扱いやすいですね。ちなみに中国、台湾ものはここ20年位、使用していません」
“ワシントン条約”の件をはじめ、近年取りざたされるウナギ資源問題についてはどんな意見を持っているか。
「昨年、モロッコの養鰻場を見学させていただいたのですが、一年で生産する30%をクロコで自然に返しているといっており(国からの補助金があるらしい?)、こんな取り組みも必要かもしれません。また土用丑という業界にとって最大の消費イベントがありますが、逆に一年に一日位、うなぎを消費しない日を定め『うなぎ資源や水産資源について考える』ような日があってもいいのでは・・・」
ウナギ資源問題が昨今、大きくクローズアップされているが、同様に深刻化している。気になる職人不足問題についてはどのような考えを持っているか?
「うなぎ職人の不足は水産業界全体の人出不足と言えるでしょう。遠洋漁業や、牡蠣の殻むきなど東南アジアのひとたちが結構、働いています。うなぎ業界ももっと間口を広く、世界から、職人の育成を考える時ではないでしょうか(せっかく、和食が世界無形文化遺産に登録されたのですから)」
ウナギ資源、職人問題、マーケット縮小など、ウナギ業界は一昔前に比べると大きく様変わりしています。これからのうなぎ専門店、どうあるべきだろうか?
「もっともっとうなぎの美味しさを追求していくのは当然なのですが、専門店の全国的なつながりがあるとうなぎを素材にいろいろなお料理の可能性も見えてくるのかな?(浜松では2Pを洋食や中華に使用できないかと模索しています)」
[データ]
浜名湖自鰻「天保」
〒431-1204 浜松市西区白洲町3353-1
TEL:053-487-1896
*「蒲焼店が考える“これから”」は現在、日本養殖新聞で連載中