「蒲焼店が考える“これから”」71 〜2016年5月10日号掲載〜 [蒲焼店が考える“これから”]
塩野茂樹店長
(大江戸 南青山店/東京都港区)
『追求心のある職人さんが少ないように思う』
夏の土用丑の日に向けて、残り3ヶ月を切った。売れ行きはどのような感じで推移しているのだろうか。
「前年比で昨対を下回る月もありますが、おかげさまで通年では毎年、昨対をオーバーしています。また現在のところ、景気も戻って来ているのか、前年比で5〜10%ほど伸びています」
近年、メニュー価格の値上げを余儀なくされたところが多いなか、現状の客足はどうだろうか。
「当店でも以前、メニュー価格の値上げをさせていただいきました。ただ、南青山という場所柄と、とくに常連様が多かったためか、値上げの影響はさほど出ませんでした。また当時は、メディア各社が“ウナギが高い”といった内容をひっきりなしに報道した事もあり、逆にお客様もある程度、納得されていたのかもしれません。ただ、当時も今も、高いお金をいただいているわけですし、私どもも納得したうなぎ料理をお客様にご提供し(予約された方の場合には、来店のタイミングに合わせ熱々のごはん、肝吸いを提供)、客足が遠のかないよう、肝に命じています」
ところで“良い”うなぎとはどのようなものなのか。
「臭みがないのは無論ですが、30数年、職人をしてきたなかで思うのは、うなぎを触ったときに“しっとりしていてハリがある”もの、そして身がとくにきめ細かいものが良いですね。逆に茶系の色をしたウナギは肉質が硬めなので蒸しが遠い(長い)ですね。良質なうなぎであれば、割きやすく、串が打ちやすい、そして綺麗な白を入れることが出来、タレ乗りも良くなります。要するに良いうなぎは、仕事がしやすく、うな重になったときの仕上がりも断然変わってきます。このようなうなぎがもっともっと増えてほしいです」、続けて「いいものは高く、それなりものはそれなりの価格で、ランク付け出来ればと思います。生産者の方もやりがいが出るのではないかと思います」
今年9月、ワシントン条約締約国会議がいよいよ開催されるが、今回はニホンウナギの提案は回避された。一方、解決策が見出せない職人不足問題についてどのような意見をお持ちだろうか。
「私たち、職人だけでなく、調理補助等、一年間募集をかけていますが、来ません。飲食業自体、求人が厳しいのかなと思います。職人高齢化が進む中、年通無休のお店などは“人材”の問題から休業、あるいは廃業せざるを得ない場面も出てくるのではないでしょうか。やはり、拘束時間が長くて休みが少ないと、若い子はなかなか入ってきません。拘束時間が長い割に手間賃が安いと感じる部分も他業種に比べて、あるのかもしれません。週休完全二日制など受け入れ体制を変えるにも、もともと人出が少なく現実的でないですし、調理の練習をするにも今では活鰻が高く、環境も昔に比べて良くないです」
最後に職人として、蒲焼専門店として今後、どうあるべきか。
「うなぎ料理は和食と異なり、至ってシンプル。だからこそ、調理技術をもっともっと突き詰めても良いのではないでしょうか。追求心のある職人さんが少ないように思います。また(調理をしていて)頭で思った事、それを確認する上で、同時に“食味”をしっかりすることで確認するも大切。とにかく、常にこだわりをもって、“いいものを出す”という気持ちが大切ではないでしょうか。それがお店の存続、ひいては鰻文化の継承に繋がっていきますからね」
[データ]
「大江戸 南青山店」
〒107-0062 東京都港区南青山2-14-22
TEL:03-3402-0641
*「蒲焼店が考える“これから”」は現在、日本養殖新聞で連載中